生き村  音もなく、蠢いていたという。  辺鄙な村の、さほど大きくもない畑。  それは、一面を埋め尽くしていた。  それは、呼吸をしていた。  それは、胎動していた。  それは、巨大化していた。  それは、徐々に、徐々に――  ――村は生物になった。    俺は、今まさに、視ている。 「巨大生物の村……か」  まだ、遠く離れたところに俺はいる。しかし、それでも村は俺の視界の多くを占めている。  確かに。看板に偽りはない。巨大で、生きていて、そして村だ。村としか言い表し様のない。村 がそのまま巨大化し、そして蠢いている。  ただ――騒々しい。まるで静かではない。  呼吸が荒いのだ。  巨大化するにつれて、エネルギーの消費量が拡大しているのだろうか。  音もなく、と聞いていた。話と違う。  遠く離れているというのに、耳を劈くような。  耳栓が、必要になるかもしれない。 「村まで行くのに足が欲しい」  そう係員に頼んだら、厳つい装甲車を支給された。  数時間前は、それが腑に落ちなかったものだ。  だが――今なら、分かる。  分からざるを得ないのだ。  音で――村の呼吸で――車体が軋む。  音とは即ち、振動。  頑強な装甲車を軋ませるほどの、とてつもないもの。    発生源の足元近く。  ドアを開くのが、躊躇われる。  耳栓どころではない。  俺の身体は、どうなる?  開いてしまったら――一体、どうなるんだ?  顔に、脇下に、掌に、汗が滴る。 「出たら壊される」  そう、脳が警告する。  しかし…… 「…何の為に来た?」  決まっている。  この生き村を、殺しに来たのだ。  その為に、こんな遠方まで派遣されて来たのだ。  仕事は、しなければならない。  迅速に、的確に――  ――何時ものように。  俺は、歯を食い縛って、ドアを開け――  破壊。  された。  耳。  目。  鼻。  陰部。  音で。  思考。  途切れ。  触覚。  触覚、だ。  これだけ。  吹き荒ぶ。  このまま。  前へ。  手を。  かざせ。  残りは。  触覚と、味覚。  全神経、掌。  前進、このまま。  前へ、足よ、動け。  達しろ。  何としても。  呼吸まで。  村の、口まで――  手が、触れた。    生暖かい。  上着の、ポケット。  右の。  カプセル。  腹下し。  国の、調合した。  科学兵器。    放り込む。    生暖かさが、纏わりつくように。    溶けている。  村が、溶けていく――  全てが、溶けた。村も、周りの草木も、田畑も、装甲車も、男も――  それから数百年後。  同じところに、また村が出来ていた。  戦争で弾き出された少数民族が作った村である。  村人達は勤勉で、また、土の状態も良好だったので、作物がよく育ち、村は発展していった。 「おーい」  村の若者が、何人かの集まりに声を掛けた。  どうした、とその連中が、若者の立つ畑に歩み寄った。 「ここに、妙なものがあるんだ〜」  若者は、足元を指差した。  そこには、土色に染められてはいるものの、明らかに周りとは異質なものと分かるゼリー状の物 質が――音もなく、胎動していた。